シナリオ004『困った同居人』

以下の利用規約に準ずる限り、音声作品の脚本として自由に使用することができます。

利用規約


トリニティムーンフリー脚本004

『困った同居人』

2015

高辻カンナ

icon_146971_64icon_120971_64


 

サツキ……OL。知的な感じ。

 

澄子……幽霊。ほんわかした感じ。

 


 

サツキ「『使用フリー脚本005』」

 

澄子「『困った同居人』」

 

ちょっと間。

 

サツキ「ただいまー」

 

澄子「お帰りなさーい」

 

サツキ「あー疲れた疲れた。もう、毎日残業で嫌になっちゃう」

 

澄子「お疲れ様です。ビール冷えてますよ。それとも、先にお風呂にしますか?」

 

サツキ「うーん、まずはビールにするかなあ」

 

澄子「簡単なものですけど、おつまみもありますよ。オクラとお豆腐を、小さく切って混ぜ混ぜしてみました。ヘルシーで美味しいと思うのですが」

 

サツキ「わあ、それは素敵だなあ。じゃあ、まずはビールっと。(ビールを飲む音)ごくっ。ごくっ。ごくっ。ぷはあ!」

 

澄子「サツキさんって、本当に美味しそうにビールを飲みますよね。うらやましいなあ。あたし、ビール飲めませんから」

 

サツキ「って言うか、澄子さん、物も食べられないよね」

 

澄子「そうですねえ。我々は、香りを楽しむだけです。それが食事代わりなんですよ」

 

サツキ「あ、あのさあ……澄子さん」

 

澄子「あら。急にあらたまって何でしょう?」

 

サツキ「そろそろ、成仏してみない?」

 

澄子「え」

 

サツキ「って言うか、おかしいよ! こんな幽霊との共同生活は! お願いだから、そろそろ出て行ってえ!」

 

澄子「そう言われましてもお。先に住んでたのは、あたしの方なんですし」

 

サツキ「ええ? 出て行くのは、あたしの方だって言うの?」

 

澄子「そ、そんなことは言ってませんよお。でも、あたしがいて便利でしょう? こうしてご飯も作りますし、お洗濯もしますし、お掃除もしますし、朝だって低血圧なサツキさんを必ず起こしているじゃないですか」

 

サツキ「だから、必ず起こしてくれるのは嬉しいけど! 部屋中がピシピシ鳴ってるのは怖いのよう。怖くてベッドから飛び起きてるだけなのよう」

 

澄子「あの音は、専門的にはラップ音って言うんですよ?」

 

サツキ「そんなことはいいから! お願い、出てってよお。こんなことじゃ、彼氏も家に呼べないのよお」

 

澄子「わあ! 彼氏さんができたのですか。あたしにも紹介してくださいね」

 

サツキ「紹介しません。そんなことしたら、一発でフラれます。って言うか、霊感がある人以外には見えないんでしょ?」

 

澄子「夜中に鏡をのぞけば、普通の人でも背後に見えることがあるのです」

 

サツキ「怖いよ!」

 

澄子「じゃ、じゃあ、あたしは姿を消してますから。それなら2人で、思う存分ラブラブできますよね?」

 

サツキ「幽霊がいるとわかってるのに、そんなことできるわけないでしょう。あーん。もう嫌だあ。どうやったら成仏してくれるのよう」

 

澄子「さあ、わかりません。自分でも、なぜ成仏できないのかわからないのです」

 

サツキ「やっぱり、きちんとお祓いしてあげようか?」

 

澄子「あれは苦しいからいやなんです。許してください」

 

サツキ「でも天国に行けるのよ? 天国って、いいところだと思うなあ。ちょっと苦しくても、我慢すればいいんじゃないかなあ」

 

澄子「ひどいです、サツキさん! そんな人だとは思いませんでしたっ」

 

サツキ「あたしの生活をめちゃくちゃにしてる、澄子さんも十分にひどいのよ?」

 

澄子「あ! そう思っていたのですか。いいですよお。……祟りますから」

 

サツキ「あーん! それだけは言っちゃだめえ! あたしはね、念願のひとり暮らしなの。友達を呼んでたこやきパーティしたり、彼氏を呼んでラブラブしたりしたいの」

 

澄子「あたしだって、友達を呼ぶのを我慢してるんですよ? じゃあ呼んじゃいますからね?」

 

サツキ「絶対にだめえ! もうわかりました。あたしが一生懸命に手を合わせますから、それで成仏してください。お願いします」

 

澄子「だからあたしも、それで成仏できるのかわからないのです」

 

サツキ「とりあえず、やってみよう? ね? 澄子さんに向かって手を合わせればいいのかな?」

 

澄子「うーん。何だかそれは、あたしが偉くなったみたいで恥ずかしいです。もっと別なところに手を合わせてください」

 

サツキ「じゃあ、どこに向かって?」

 

澄子「そうですねえ。あたしが、ぶら下がっていたのは確か……」

 

サツキ「あーん! やっぱり自殺だったんだあ。今まで怖くて聞けなかったけど、そういう死に方だったんだあ。だから幽霊になっちゃったのねっ?」

 

澄子「あ、幽霊差別。殺されちゃった人だって、幽霊にはなりますよ?」

 

サツキ「そうかも知れないけど。ねえ、どうして自殺しちゃったの? その理由を解消してあげたら、きっと成仏できるんじゃないかしら」

 

澄子「なんだったかなあ。もう忘れちゃいましたねえ」

 

サツキ「忘れちゃうものなの!?」

 

澄子「きっと、たいした理由じゃなかったんですよ」

 

サツキ「たいした理由もなく自殺しちゃだめーっ!」

 

澄子「あ」

 

サツキ「思い出した!?」

 

澄子「ゴキブリがいます」

 

サツキ「ああ! いや! いや! あたしゴキブリはだめえ! お願い、澄子さん、退治してえ!」

 

澄子「あたしと同居してくれます?」

 

サツキ「するする! いつまでも、好きなだけいていいからあ! あーん、はやくう!」

 

澄子「じゃあ。えい! はい、退治しましたよ」

 

サツキ「うう。情けない。幽霊よりも、たかが虫の方が怖いなんてえ。あれ?」

 

澄子「いつまでも……好きなだけ……いてもいい……」

 

サツキ「澄子さん? 光ってる! 身体が光ってるよっ」

 

澄子「あは。何だか嬉しくなったら、成仏できる気がしてきました」

 

サツキ「え? そうなの?」

 

澄子「ビン缶ペットボトルは水曜日、燃えないゴミは金曜日。忘れないでくださいね?」

 

サツキ「す、澄子さん……」

 

澄子「では、これにて。長い間、お邪魔しました」

 

ちょっと間。

 

サツキ「ばか。いきなり成仏しなくたっていいじゃない」

 

ちょっと間。

 

サツキ「あ。オクラとお豆腐、美味しいな……」

 

澄子「混ぜすぎないのがポイントです!」

 

サツキ「って成仏してないのかよ!」

 

おわり

LINEで送る
Pocket