シナリオ009『伝説の女勇者と紅の魔女@メイド喫茶』

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トリニティムーンフリー脚本009

『伝説の女勇者と紅の魔女@メイド喫茶』

2016/08/18

高辻カンナ

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女勇者……伝説の女勇者エルザ

 

メイド……紅(くれない)の魔女アカネ

 

店員……メイド喫茶の同僚

 


 

メイド「『使用フリー脚本009』」

 

女勇者「伝説の女勇者と紅の魔女@メイド喫茶」

 

カランカランとドアベルの鳴る音。

 

メイド「お帰りなさいませ、お嬢さまあ」

 

女勇者「わ、私はお嬢様じゃないわ!」

 

メイド「失礼しましたあ。ではお帰りなさいませ、ご主人さまあ」

 

女勇者「ご主人様でもない! 私は女勇者エルザよ! 忘れたとは言わせないわ、紅の魔女っ!」

 

メイド「ごめんなさあい、お嬢さまあ。このメイド喫茶トリニティムーンにお帰りになるのは、初めてじゃなかったんですねえ。でも申し訳ありません。覚えてないんですう。えへっ」

 

女勇者「えへっ、じゃない! ふ。それもそうね。私を覚えていないのも無理はないわね。お前がサイルリア王国を滅ぼしにやって来たのは、私がまだ5歳の――」

 

メイド「(さえぎって)お嬢さまあ。他のご主人さまが、後ろでお待ちになっておられますう。お話は、テーブルにお着きになってからでよろしいですかあ」

 

女勇者「あ、あ。うん。じゃあ、それでいい」

 

メイド「お嬢さまは、おひとりでお帰りですかあ」

 

女勇者「そうよ! お前を倒すために集まった仲間たちは、一人また一人とモンスターにやられ、ついには私だけになってしまったのよ!」

 

メイド「では、こちらのお席にどうぞお」

 

女勇者「あ、あ。うん」

 

メイド「お嬢さまのお世話をさせていただきます、メイドのアカネと申しまあす。よろしくお願いしまあす」

 

女勇者「そうなの。紅の魔女の本当の名は、アカネと言うのね。その名前、お前の墓に必ず刻んでやるわ!」

 

メイド「お嬢さまのお名前は、エルザさまでよろしかったでしょうかあ」

 

女勇者「そうよ! 私はサイルリア王国のエルザ姫。聖なる剣(つるぎ)、ルーンブレイドに選ばれた、伝説の女勇者なのよっ!」

 

メイド「はーい。では、エルザお嬢さまとお呼びしますねえ」

 

女勇者「あ、あのね。私の話、聞いてる? きちんと理解してる?」

 

メイド「だいじょうぶです、エルザお嬢さまあ。きちんとお話についていってますよお。お嬢さまはお姫さまで、伝説の女勇者さまでもあるんですねえ」

 

女勇者「う、うん。その通りなんだけど。私がなんで、お前のところにやってきたか、ちゃんとわかってるのよね?」

 

メイド「うーん。そうですねえ。このトリニティムーンは普通のメイド喫茶と違って、お側に専属のメイドがお仕えして、そのメイドとゆっくりお話ができるのが自慢なんですう。だから選んでくださったんですよね?」

 

女勇者「違うわ! お前とお喋りするために、私は来たんじゃない!」

 

メイド「そうですかあ。ここはメイド喫茶ですからあ、普通にメイドを眺めたりい、一緒に写真を撮ったりい、もちろんお料理を召し上がることもできますよお」

 

女勇者「お、お料理?」

 

メイド「はい、トリニティムーンのお料理は、美味しいことで有名なんですよお。こちらのメニューをどうぞお」

 

女勇者「メニュー?」

 

メイド「人気は、きゅんきゅんオムライスでえす」

 

女勇者「きゅんきゅん……オムライス?」

 

メイド「はあい。メイドのあたしがケチャップでお好きな文字を書いて、美味しくなるよう、特別な魔法をかけるんでえす」

 

女勇者「魔法! やはり紅の魔女。魔法はお手のものと言うわけね!」

 

メイド「はあい。でも、あたしだけじゃないんですよお。この喫茶店のメイドなら、みんな美味しくなる魔法が使えまあす」

 

女勇者「くっ! このメイド喫茶にいる者すべてが、呪われた女魔法使いというわけなのね。恐ろしいところだわっ」

 

メイド「恐ろしいお店ではないですよお。明るく楽しく萌え萌えで、明朗会計でえす」

 

女勇者「ふふ。だがそんな魔法などはねかえして見せるわ! 私にはこのルーンブレイドがあるのだから。よし、できるものなら私に魔法をかけてごらんなさい!」

 

メイド「はーい。では、きゅんきゅんオムライスをご用意いたしまあす。おまちくださいませえ」

 

女勇者「よし、どこからでも来なさい!」

 

メイド、去る音。

戻ってくる。

 

メイド「お待たせしましたあ。シェフにエルザお嬢さまのため、とびっきり腕をふるうよう命じてきましたあ」

 

女勇者「その……魔法には、時間がかかるの?」

 

メイド「申し訳ありません、エルザお嬢さまあ。そうなんです。トリニティムーンには一人しかシェフがおりませんので、少々お時間をいただきまあす」

 

女勇者「では、それまで何をすればいいのよ?」

 

メイド「もちろんお話ですう。エルザお嬢さまは、どちらからお帰りになったんですかあ」

 

女勇者「言ったでしょ! サイルリア王国だわっ!」

 

メイド「海外ですかあ。嬉しいですう。最近はこのメイド喫茶もいろんなホームページに掲載されて、海外からお帰りになるご主人様も多いんですよお」

 

女勇者「ホーム……ページ? それは何?」

 

メイド「この喫茶店の紹介から、お勤めしているメイドの写真、空港から秋葉原駅までの行き方、この店の地図などが載っているんですよお」

 

女勇者「なんですって? ホームページ、それはいわゆる『魔法の地図』というものなの? この世界にやって来てからも迷いに迷い、やっと秋葉原にたどり着いたというのに!」

 

メイド「あらあ。羽田空港から秋葉原は、東京モノレールに乗って浜松町まで来ると早いですよお。成田空港からはスカイライナーで日暮里まで来るのが便利でえす」

 

女勇者「そ、そんな手があったのね! く……。私の苦労は一体、なんだったの……」

 

メイド「大変でしたねえ。よくここまで帰られました。えらいですう」

 

女勇者「誉めないで! え、え、いや、まって。今のセリフを、もう一度言ってみなさい」

 

メイド「はあい? 『よくここまで帰られました。えらいですう』ですかあ?」

 

女勇者「ふふふ。ようやく悪の親玉らしいセリフを言ったわね。それはつまり、『よくここまで来たな。ほめてやろう』ってことでしょう!」

 

メイド「うーん。まあ、そういうことでしょうかあ? でも、もう大丈夫ですよね。次はもう、迷わないでお店に帰れますねっ」

 

女勇者「いや、来ないわ! お前を倒せば、ここにまた来る必要などないんだから!」

 

メイド「ああん。そんな悲しいことはおっしゃらないでくださあい。エルザお嬢さまがお帰りになるたびに、このカードにスタンプを押させていただきまあす」

 

女勇者「……それで?」

 

メイド「10個集めると、特別なサービスをいたしまあす」

 

女勇者「お、教えなさい! まさか石になったお父様とお母様を、元に戻すと言うんじゃないでしょうねっ!」

 

メイド「特別なサービスですから、内緒なんですう」

 

女勇者「くっ! 10回も、この喫茶店に通わせようと言うの。なんてずるがしこいのかしら」

 

メイド「でも、好評なサービスなんですよお。楽しみにしててくださあい。ところでエルザお嬢さまはあ、普段は何をなされているんですかあ?」

 

女勇者「言ったでしょ! お前を倒し、王国を復活させるため、はるばる旅をして来たのよ!」

 

メイド「あらあ、ずっと旅行されてるんですかあ。素敵ですねえ。でも必要なお金は、どうしてるんですか? 働かないと、収入がなくて大変ですよねえ」

 

女勇者「モンスターを倒したり、困っている村人を助けたり、宝箱を開けたり、タンスをひっくり返したり、壷を割ったりとかいろいろよ」

 

メイド「短期のアルバイトですかあ。そうやってお金を稼ぎながら旅をするのも素敵ですねえ。その土地土地で、いろんな人と交流したりして」

 

女勇者「ええ。私が出会った人々は、みんな口々に訴えていたわ。紅の魔女、お前に国をぼろぼろにされた、と。勇者様、あいつを倒してください、ってね!」

 

メイド「エルザお嬢さまのご趣味はなんですかあ?」

 

女勇者「私の話、聞いてないでしょ!」

 

メイド「そんなことないですよお。紅の魔女を倒してくださいと、みんなに頼まれたんですよねえ」

 

女勇者「そうよ! そして紅の魔女とは、お前のことでしょう!」

 

メイド「ああん。あたしのことは、お前じゃなくてアカネと呼んでくださあい。ア・カ・ネ」

 

女勇者「ア、アカ、ネ」

 

メイド「わああ。エルザお嬢さまが、あたしの名前を呼んでくださいましたあ。嬉しいですう」

 

女勇者「う、嬉しいの? い、いや、待ちなさい。私はお前を喜ばせるために、はるばるここまでやって来たんじゃないわ!」

 

メイド「えー。嬉しいですよお。お帰りになったのも嬉しいですし、名前を呼んでくださったのも嬉しいですう。でもじつは、あたしが一番嬉しいのは、頭をなでなでされることなんですう」

 

女勇者「な、なでなで?」

 

メイド「はあい。よろしかったら、あたしの頭を、やさしくなでなでしてくださあい」

 

女勇者「ひ、人の頭など、なでたりしないわ! 私だって大人になってから、なでてもらったことなんてないのよ!」

 

メイド「あらあ。そうなんですかあ。それはさみしいですう。では、あたしがエルザお嬢さまの頭を、なでなでして差し上げまあす。なで、なで、なで」

 

女勇者「く……なんの……つもり……だ」

 

メイド「嬉しくないですかあ?」

 

女勇者「う、嬉しくなんかないわ! 本当よ! こ、こんなことで、お前を許したりはしないんだからねっ!」

 

メイド「そうですかあ。残念ですう」

 

女勇者「そもそも紅の魔女アカネ! お前はどうしてこんな店で働いているのよ。私にきちんと説明しなさい!」

 

メイド「えー。メイドに、そういうことを聞いちゃだめなんですよお」

 

女勇者「……そうなの?」

 

メイド「そうなんですう。でもあたしは、このお店のコスチュームがかわいくて、着てみたかったからですよお。嘘じゃないです。本当ですう」

 

女勇者「り、理解できないわ。サイルリア王国を滅ぼした紅の魔女が、洋服がかわいいという理由で、メイド喫茶に転職ですって? 世界一残酷と言われた女が、今ではメイドなの?」

 

メイド「あ。お料理ができたみたいですう」

 

テーブルに食器を置く音。

 

メイド「はーい、お待たせしました。エルザお嬢さまあ。では、お好きな文字を書きまあす。何がよろしいですかあ?」

 

女勇者「『打倒魔女』だ!」

 

メイド「文字数が多いですねえ。じょうずに書けないかもお。だ、と、う、ま、じょ、と。うーん。ちょっと読めないかなあ?」

 

女勇者「これが、きゅんきゅんオムライスなのか……」

 

メイド「では、おいしくなる魔法をかけさせていただきまあす。おいしくなあれ! もえもえ、きゅんきゅん!」

 

女勇者「も、もえもえ、きゅんきゅん……」

 

メイド「どうぞ、お召し上がりくださあい」

 

スプーンのカチャカチャいう音。

 

女勇者「(ひとくち食べて)お、おいしい。これが魔法の力というやつなの? なんて恐ろしいのかしら……(食べる音)」

 

メイド「喜んでもらえて嬉しいですう」

 

女勇者「(食べる音)」

 

メイド「エルザお嬢さまあ、ゆっくりと召し上がってくださあい」

 

女勇者「(食べる音)」

 

メイド「そんなにあわてると、のどに詰まらせてしまいますよお」

 

女勇者「(食べる音)ふう」

 

スプーンを置く音。

 

女勇者「ご、ごちそうさま……」

 

メイド「はい、おそまつさまでしたあ」

 

女勇者「い、いや。私はオムライスを食べに来たんじゃない! 確かに美味しかったけど!」

 

メイド「ほめていただき光栄ですう」

 

女勇者「ええい、まどろっこしいわ! 会話も食事も、もううんざりよっ。紅の魔女アカネ、私と勝負しなさい!」

 

メイド「はーい。では、萌え萌えじゃんけんでえす」

 

女勇者「じゃ、じゃんけん?」

 

メイド「あたしに勝つと、とっても良いことがありまあす」

 

女勇者「ふふふ。いいわよ。じゃんけんで勝負ね! 私は決して負けはしない。お前の首、必ず貰うわ!」

 

メイド「では一緒に『萌え萌えじゃんけん、じゃんけん、ぽん』って言ってくださいねえ」

 

女勇者「よし、きなさい!」

 

女勇者メイド「萌え萌えじゃんけん、じゃんけん、ぽん!」

 

女勇者「あーっ! 負けたっ!」

 

メイド「あたしの勝ちですう!」

 

女勇者「くーっ。お父様、お母様、倒れていった仲間たち、ごめんなさい。王国のみんな、ごめんなさい。私は、私はっ、最後の勝負に勝つことができなかったーっ……」

 

メイド「そんなにショックを受けなくてもいいんですよお。勝負は時の運なんですからあ」

 

女勇者「同情などいらないわ! さあ、逃げも隠れもしない。私を殺しなさい!」

 

メイド「エルザお嬢さまはオーバーですねえ。はい、残念賞の、あたしの写真でえす」

 

女勇者「しゃ、写真?」

 

メイド「サイン入りでえす。おみやげにどうぞお」

 

女勇者「おみ……やげ? はっ、これが噂に聞く『めいどのみやげ』というやつ? そうなのねっ!」

 

メイド「今度はじゃんけんに勝って、一緒に写メを撮りましょうねえ」

 

女勇者「くっ。わ、私の完敗だわ。今日は……もう……帰るわ。また……くる……」

 

メイド「はーい。今日はお帰りいただき、ありがとうございましたあ! 行ってらっしゃいませ、お嬢様あ!」

 

カランカランとドアベルの音。

ちょっと間。

 

メイド「エルザお嬢様……。ちょっと変わった、お客様ですわねえ……。あたしの記憶喪失と……何か……関係があるのでしょうか?」

 

店員「アカネちゃん、ご主人様がお待ちよー」

 

メイド「……あ、はーい! メイド喫茶、トリニティムーンにお帰りなさいませえ!」

 

おわり

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