シナリオ010『コスプレの迷い道』

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トリニティムーンフリー脚本010

『コスプレの迷い道』

2016/09/19

高辻カンナ

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ミイシャ……友達を捜している女の子

 

店員……落ち着いた女性

 

エルザ……はぐれてしまった女の子

 


 

ミイシャ「『使用フリー脚本010』」

 

店員「『コスプレの迷い道』」

 

ちょっと間

 

ミイシャ「あ、あのう……」

 

店員「はい、いかがなさいましたか、お客様」

 

ミイシャ「友達とはぐれてしまって……。このデパート内にいるのは確かだと思うんです。呼び出してもらえませんか」

 

店員「かしこまりました。では、そのお友達のお名前を教えていただけますか?」

 

ミイシャ「やっぱり必要ですよね?」

 

店員「はい? そうですね。お呼び出しいたしますには、やはりお名前をおうかがいしなくては」

 

ミイシャ「それがその……ネットで知り合った友達だから……本名を知らないんです」

 

店員「そうでしたか。最近、そのようなお客様のお呼び出しも、多数うけたまわっておりますよ。ハンドルネームでもかまいません」

 

ミイシャ「ハンドルネーム……というか……コスプレ仲間なので……お互いのキャラ名で……呼び合ってて……」

 

店員「では、そのアニメのキャラ名でお呼びいたしますね」

 

ミイシャ「アニメじゃないです! まだアニメ化はされていないんです!」

 

店員「はあ」

 

ミイシャ「確かに爆発的な人気のソシャゲで、今年のコミケでは大変なことになるとか言われてるけど、公式は頑なにアニメ化を否定してるんです! たぶん作品のクオリティをあげるため、準備に時間をかけてるんだと思うんです。それを心無いファンは、アニメ化を伸ばして伸ばしてお金をたっぷりむしり取るつもりだと言ってるんです。どう思います!? ひどいとは思いませんか!?」

 

店員「はあ。わたくしにはなんとも……」

 

ミイシャ「そ、そうですよね。あたし、このソシャゲのことになると、つい熱くなってしまうんです。ごめんなさい」

 

店員「いいえ、構いませんよ。それで、その、キャラ名でお呼び出しいたしましょうか?」

 

ミイシャ「伝説の女勇者エルザ姫です」

 

店員「ええと。エルザ様、ではいけませんでしょうか?」

 

ミイシャ「だめです」

 

店員「はあ。では、その伝説の女勇者エルザ姫様は、どちらからおいででしょうか?」

 

ミイシャ「サイルリア王国です」

 

店員「え」

 

ミイシャ「だって、彼女が本当はどこに住んでるか知らないんだもの! エルザ姫様の設定ならわかるわ。彼女はサイルリア王国の最後のお姫様なの。王国を滅ぼした紅の魔女を倒すべく、七つの世界を旅しているのよ」

 

店員「はあ。では、これでよろしいのでしょうか? 『サイルリア王国からいらっしゃいました伝説の女勇者エルザ姫様。お友達が一階受付カウンターでお待ちです』、どうでしょう?」

 

ミイシャ「それが、その……じつは友達じゃないんです」

 

店員「え」

 

ミイシャ「あたしは聖なる巫女ミイシャ姫というキャラなんですが、これはエルザ姫の命を奪うためひとりで旅に出た、ファーリューンのお姫様なんです」

 

店員「はあ」

 

ミイシャ「でも、それは誤解で! 本当は、あたしミイシャ姫の許嫁を殺したのは、エルザ姫じゃないんです。それどころか! ふたりは実は聖なる姉妹で、その誤解はやがて解けて、共に紅の魔女に立ち向かうんです!」

 

店員「はあ」

 

ミイシャ「だから今は、友達じゃないんです! 命をつけ狙ってるんです!」

 

店員「では、これでよろしいのでしょうか? 『サイルリア王国からいらっしゃいました伝説の女勇者エルザ姫様。あなたの命をつけ狙っている方が一階受付カウンターでお待ちです』、どうでしょう?」

 

ミイシャ「だいぶ良くなってきたと思います」

 

店員「だいぶ……なんですか」

 

ミイシャ「エルザ姫は、紅の魔女に使える7人の魔界将軍にも、命をつけ狙われているんです。だから、『つけ狙われている』と言っても、それがあたしだとわかるかどうか疑問ですよね?」

 

店員「はあ。では、お客様のお名前もお加えいたしましょうか。『サイルリア王国からいらっしゃいました伝説の女勇者エルザ姫様。あなたの命をつけ狙っている聖なる巫女ミイシャ姫様が一階受付カウンターでお待ちです』。これなら、問題ありませんよね?」

 

ミイシャ「それが、その……。あたしは今、自分がミイシャ姫だとは知らないんです」

 

店員「えええ?」

 

ミイシャ「記憶喪失なんです。自分の名前もわからないんです。紅の魔女にだまされて、エルザ姫を倒せば、記憶が戻ると信じ込んでいる状態なんです」

 

店員「えーと? では何とお呼びすれば良いのでしょう? 難しすぎて、よくわからなくなってきたのですが」

 

ミイシャ「ぬるいファンは、すぐにそういうのよ! 最近の設定は複雑すぎてついていけないって! でも、これくらい何よ。愛が足りないわ! あなたもこれがわからないようじゃ、立派なファンにはなれないわよ!」

 

店員「あ、あの、申し訳ありません。わたくしは立派なファンを目指してはおりませんので」

 

ミイシャ「そ、そうですよね。ごめんなさい。あたし、このソシャゲのことになると、つい熱くなってしまうんです」

 

店員「そうでしたよね。では、これでよろしいのでしょうか。『サイルリア王国からいらっしゃいました伝説の女勇者エルザ姫様。あなたの命をつけ狙っている自分の名前もわからない記憶喪失の方が一階受付カウンターでお待ちです』、どうでしょう?」

 

ミイシャ「それでお願いします」

 

店員「(ほっとした)ふう。では、それでお呼び出しいたしますね」

 

歩いてくる音。

 

エルザ「やっと見つけたわ!」

 

ミイシャ「あなたは、サイルリア王国の女勇者エルザ姫!」

 

エルザ「こんなところにいるとは思わなかったわ。聖なる巫女ミイシャ姫ともあろうものが、デパートの呼び出しの力に頼ろうなんて情けないことね」

 

ミイシャ「ミイシャ……姫……? あたしは本当に……聖なる巫女……ミイシャ姫なの?」

 

エルザ「そうだ、思い出せ! お前は紅の魔女に、だまされているんだ!」

 

ミイシャ「そ、そんなはずはないわ。あたしは、あなたを倒して記憶を完全に取り戻す!」

 

エルザ「ならば仕方ない! 行くわよ! 池袋のアニメショップを回ったあと、執事喫茶で休憩してから、カラオケボックスで勝負するの!」

 

ミイシャ「最初から、そのつもりよ! さあ、行きましょう。(店員に)あなた」

 

店員「あ、わたくしですか?」

 

ミイシャ「世話になったわね。あなたの優しさ、決してわすれないわ。生きていたら、また会いましょう」

 

店員「はあ」

 

エルザ「さあ、時間がないわ! 行きましょう!」

 

ミイシャ「ええ、必ず、あなたを倒してみせる!」

 

去って行く音。

 

店員「え、えーと」

 

ちょっと間。

 

店員「コスプレって……奥が深いんですねえ……」

 

おわり

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