シナリオ011『がんばれ、紫苑ちゃん』

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トリニティムーンフリー脚本011

『がんばれ、紫苑ちゃん』

2016/07/19

高辻カンナ

 


紫苑……弱気なヤンキー

 

みちる……のんびりした女の子

 


 

みちる「『使用フリー脚本011』」

 

紫苑「『がんばれ、紫苑ちゃん』」

 

ちょっと間。

 

ドアを優しくノックする音。

 

みちる「はーい」

 

ドアが優しく開く。

 

紫苑「おらあ! みちる! 今晩、出かけるぞ!」

 

みちる「あらあ。紫苑ちゃん、いらっしゃい。出かけるってどこに?」

 

紫苑「集会だ!」

 

みちる「集会ってなあに? あたし政治的な集会と、宗教的な集会は、ちょっとパスしたいわあ」

 

紫苑「そんなんじゃねえよ」

 

みちる「でも、紫苑ちゃんがそういう集会に行きたいなら、あたしに止める権利はないわよねえ。思想も自由だし、宗教も自由なんだもの」

 

紫苑「だから、そんなんじゃねえって言ってるだろ。そもそも俺が今まで、政治とか宗教の話をしたことがあったかよ」

 

みちる「うーん? 他の人に知られたくない政治思想とか、秘密にしてる宗教とかもあるじゃない」

 

紫苑「もういいよ! 俺が言ってるのは、ヤンキーの集会! みんなで工場跡に集まるんだよ」

 

みちる「あらあ。ちょっと興味はあるけど、あたしが行ってもいいのかしら。あたしはヤンキーじゃないわよねえ。あら? でも自覚がないだけで、人にはヤンキーに見えたりするのかしら。紫苑ちゃんには、どう見える?」

 

紫苑「どこから見てもヤンキーじゃねえよ。でもいいんだ、あたしのダチだろ? だから誘ってやってるんだ」

 

みちる「まあ、嬉しいわあ。あたしも紫苑ちゃんのこと、お友達だと思ってる。それも一番のお友達よ。これからもずっと、仲良くしましょうね」

 

紫苑「言われなくてもそのつもりだよ。で、行くのか、行かねえのか」

 

みちる「うーん。もうすぐ期末テストがあるでしょう。あたし、勉強して、もう少し順位を上げたいのよねえ」

 

紫苑「じゃあ、行かねえんだな?」

 

みちる「紫苑ちゃんも、勉強しなくていいの? 前回のテストの順位、トップクラスだったじゃない。あんなに喜んでたのに、順位が落ちたらがっかりしない?」

 

紫苑「(動揺してる)かかか、関係ねえよ。世の中には、勉強より大事なこともあるんだよ」

 

みちる「そうなの。でも、もっと早く誘って欲しかったわあ。あたしも一緒に行きたいけど、やっぱりお勉強も大事だし。今度じゃだめなのかしら? それならあたし、きちんと予定に入れておくから。今日は紫苑ちゃん一人じゃだめ?」

 

紫苑「……だって……怖いだろ」

 

みちる「なあに、紫苑ちゃん? 良く聞こえなかったわ」

 

紫苑「だって怖いだろ! ヤンキーの集会って、男がいっぱい来るんだぞ。俺、ずっと女子校だし、そういう場所に行くのは初めてなんだよ……」

 

みちる「紫苑ちゃん、男性が苦手だものねえ」

 

紫苑「苦手なんじゃねえよ。話とかしたことねえから、どうしたらよいのかわかんねえだけだよ。それも男が一人じゃなくて、いっぱい来るんだぞ。怖く感じちゃってもしょうがねえだろ」

 

みちる「紫苑ちゃんは人一倍、繊細な女の子だものねえ」

 

紫苑「だから、お前が来てくれるなら、安心なんだよ。一緒に来てくれよ」

 

みちる「うーん? あたしは頼りにされてるのね? だったら紫苑ちゃんのためにも集会に行かなきゃだわ。そうよね、世の中には勉強よりも大事なことだってあるのよね」

 

紫苑「……悪いな」

 

みちる「いいのよ。ちょっと楽しそうだし。でも集会って、何をするの?」

 

紫苑「……わかんねえ」

 

みちる「あら、そうなの?」

 

紫苑「たぶん、みんなでお菓子を食べながら、お喋りすると思うんだ。あとトランプとかするかもしれねえな。チェスやリバーシはしねえと思う」

 

みちる「ふーん。お洋服は、何を着て行けばいいのかしら」

 

紫苑「トップクだよ」

 

みちる「あら。聞いたことがないブランドだわ。紫苑ちゃんって、やっぱりお洒落さんよねえ。いつもみたいにフリルがついてるの?」

 

紫苑「ついてねえよ。トップクは特攻服。ヤンキーが気合入れるために着る服だよ」

 

みちる「それってお値段はどれくらい? あたしのお小遣いで買えるのかしら。もっと早く教えてくれれば、あたしだってネットで調べてみたのに」

 

紫苑「俺のトップクを貸してやるから大丈夫だよ」

 

みちる「まあ。それは助かるわ」

 

紫苑「あと、手土産は何がいいんだよ」

 

みちる「紫苑ちゃんは、本当に気が利くわよねえ」

 

紫苑「当たり前だろ。初めて集会に顔を出すんだぞ。手土産ぐらい持って行かないと恥ずかしいじゃねえか」

 

みちる「そうねえ。集会には、何人ぐらいくるのかしら?」

 

紫苑「それがわかんねえんだよ。だからみんなでつまめる、クッキーなんかどうかと思うんだ。でも、甘いのが嫌いな人もいるかもしれねえし。今の季節、イチゴもうめえんだよな。どう思う?」

 

みちる「クッキーでいいんじゃないかしら。お茶にも合うし」

 

紫苑「だよな。誰かアッサムティーを持って来てねえかな。それとクッキーの組み合わせは最高だよな!」

 

みちる「で、その工場跡まで何で行くの? あっ、バイクね。紫苑ちゃん、教習所に通っていたもの。偏見かも知れないけど、ヤンキーってやっぱりバイクのイメージがあるわよね」

 

紫苑「……試験に落ちたんだ」

 

みちる「あら」

 

紫苑「一本橋から落ちて、一発不合格なんだ。でも一本橋って難しいんだぞ。幅が30センチしかなくて、15メートルもあるんだ。普通二輪はこれをゆっくり7秒以上かけて渡らないといけないんだぞ。7秒だぞ! 小型二輪は5秒以上でいいのに」

 

みちる「良くわからないけど、とっても難しいのね。じゃあ、何で行くの?」

 

紫苑「すぐ近くにバス停があるんだ。時刻表は、俺が調べてあるから安心しろ」

 

みちる「紫苑ちゃん、準備がいいわあ。じゃあ帰りもバスね?」

 

紫苑「ああ。最終バスの時間が早いんだよ。あんまり長居はできねえな」

 

みちる「それで……なんだけど。どうしてそこまでして集会に行きたいの? 何か特別な理由があるんでしょう。教えてくれてもいいんじゃない?」

 

紫苑「集会に誘ってくれた先輩が……かっこいいんだ」

 

みちる「まあ。男性に不慣れなのに恋なのね」

 

紫苑「こんな気持ち、初めてなんだよ。先輩のことを思うと、心臓がどきどきするんだよ」

 

みちる「あたし応援するわ。紫苑ちゃんの初恋がかなうよう、協力する」

 

紫苑「すまねえな」

 

みちる「でも、えっちなことは、まだだめよ?」

 

紫苑「そんなこと、するわけないだろ! 俺はまだ未成年なんだぞ! 第一、そういうことは結婚してからだ!」

 

みちる「その先輩が、どうしてもえっちなことしたいって言ったら、断れる?」

 

紫苑「せ、先輩は、そんな不潔な男じゃねえよ! ……たぶん」

 

みちる「キスぐらいは、すぐにしたがるかもしれないわねえ」

 

紫苑「キ、キスう!?」

 

みちる「先輩だって男性だもの。紫苑ちゃんのことが好きなら、そういうこと、求めてくるかもしれないわよ」

 

紫苑「そ……そうかな……。やだな……俺……集会……怖くなってきた」

 

みちる「あら」

 

紫苑「先輩が、俺のことを好きかわからねえけど。そんな心配は、しすぎなのかもしれねえけど。でも……キスとか……求められたら……俺……どうやって断ったらいいか……わかんねえし……先輩に嫌われたくねえけど……でも……怖いし……俺……泣いちゃうかも……」

 

みちる「紫苑ちゃん……」

 

雨の音。

 

みちる「あ、あらあ。雨だわ。集会はどうなるのかしら?」

 

紫苑「雨なら……中止だな」

 

みちる「そうなの。先輩に会えなくて、残念ね」

 

紫苑「……いいんだ。俺、浮かれてたかも。先輩のことが本当に好きなら、もっともっと、男女の正しい付き合い方ってやつを、冷静に考えてみるよ」

 

みちる「うん。あたし、そういう紫苑ちゃんが大好きよ。がんばれ、紫苑ちゃん!」

 

紫苑「じゃあ、せっかく来たんだし、一緒に勉強するかあ」

 

みちる「まあ、嬉しいわ。あたしに、わからないところ教えてくれる?」

 

紫苑「しょうがねえなあ。俺の教え方は、乱暴だぜ? だって俺は、ヤンキーなんだからな!」

おわり

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